緊急避難的仮設ブログ
  • 11«
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  • 31
  • »01
スポンサーサイト
--年--月--日 (--) | 編集 |
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


ある日の「シノギを巡る」人々
2008年12月30日 (火) | 編集 |
 年の瀬も押し迫った師走のある日。株式会社クリスタル商事の社長室には、眉間に皺を寄せた男たちが集っていた。
「これが噂の極道キューピーか……、貧相な代物だな」
 重厚なオークで出来た社長机の上には、ごく小さいキューピー人形が万歳ポーズのまま固まっている。背中には風神、胸元には勇ましい虎の刺青を背負っているキューピーは、日本最大の暴力団が作った、いわゆる今年のシノギ、極道キューピーだった。
「調べでは原価二十七円程度ですが、どうやらそれを五個セット一万円で売り捌いているようですね」
 ちんまりと可愛い小さなストラップは一般人の目に目立たない。けれど着けて歩けば、某巨大暴力団の関係者あるいは傘下の者としてヤクザの目には映る。
 一目で見て、どこの人間か識別することができる代物なのだ。
「それで、これをわざわざ金を出して買った馬鹿はどうした?」
 まさか大手を振って歩いてるんじゃないだろうな、と冷ややかな声で尋ねるのは表向き金融会社経営、その実は西中島連合会の代表代行と噂される六条成湫である。
「地下室で再教育し直した後、うちの極道ニャンコを売ってくるように蹴り出しておきました」
 優雅な笑顔で答えるのは黒坂乙彦、寒空の下、極道ニャンコのグッズを売り切るまで死んでも帰って来るなと下っ端を蹴り出す自称成湫の教育係だ。マッチ売りの少女ならぬ、ニャンコ売りのヤクザを大量に蹴り出した男である。
「うちのユキをモデルにしたんだ、売り切るなんて簡単だろう」
 誰が見ても欲しがる筈だ、と満足げに黒猫のストラップを手に取る成湫は自作のグッズにご満悦らしい。
「ええ、その人相の悪さ、目付きの凶悪さ、因縁を付けられそうな雰囲気、猫ちゃんの愛らしさを的確に表現してますよね」
 デザインを手がけた乙彦としても納得の一品なのだろう、黒い猫に銜えさせたクリスタルの金魚にまで細かい細工がしてある。
「遠回しにユキの悪口を言ってるんじゃないだろうな?」
 刺青の印刷が微妙にズレている上に、金具が頭部へ適当に突き刺してあるだけの極道キューピーとは出来の違いが歴然だ。
「まあいい、ユキのモデル料はキッチリ払って貰うからな」
 とんでもないと眉を持ち上げる乙彦をバッサリと切って捨て、ふいに成湫は難しい表情で黙り込んだ。
「……どうかしましたか?」
 今度はなんだという台詞を飲み込んで、乙彦は成湫へ促す。
「もしもあの人が欲しがったら、俺は断れるだろうか……」
 少し可愛く作りすぎたと眉を顰める成湫は、これだけはいくら欲しがられてもあげるわけにはいかないと苦悩し始める。正式なシノギである以上、刑事の恋人にはプレゼントできないからだ。
 そんな成湫に乙彦は微笑って、こう答えた。
「大丈夫ですよ、本物の可愛さにはとても敵わないですからね」


 その日、深夜に近い時間になって成湫の愛しい人はマンションのドアを開けた。
「ただいまニャオ、いい子にしてたか?」
 鍵穴へ鍵が挿された瞬間にドアへ向かって飛んだ黒猫を素早く両手で受け止めて、頬擦りしながら鍵を締める。その人がドアを閉めて鍵を掛けるまでの間、成湫はいつも理不尽に長いお預けをされているような気になるのだ。
「お帰りなさい刑事さん」
 よく躾けられた犬のように玄関で立ち尽くして、気ままな猫が抱きしめられて頬擦りされているのをじっと見つめたまま自分へ振り返ってくれるのを待ち続ける。
 憎らしい恋人は猫を構うだけで、いつも酷く成湫に素っ気ない。
「ただいま、猫好きの極悪金融」
 もう何度繰り返しているかわからないやりとりに、なのにまだ照れてしまうのか、成湫の愛しい人は恥ずかしそうにはにかんで、少しだけ意地悪い表情で成湫を見上げるのだ。
「おかえりなさい、俺にだけ素っ気ない敏腕刑事さん」
 いつも猫だけ特別扱いだと拗ねて見せながら、その滑らかな頬が薄赤く染まっているのを見るだけで笑みが零れてしまう。
 どんな意地悪も呆気なく許せるのは、惚れた弱みなのだろうか。
「素っ気なくないだろ、……ただいまって言ったし」
 猫を抱き上げたまま悪戯っぽく成湫を睨んで、チョイチョイと手招きする行弘に、成湫は微笑って頬を寄せるしかない。
 そうしたら、すぐに優しい温もりに触れることが出来るからだ。
「今日、これ署で貰ったんだ」
 ふいに、面白いだろ、と可笑しそうに笑いながら差し出されたものに成湫は一瞬で笑みを強ばらせる。
「なんか資料に持っとけって貰ったんだけど、キューピーなのに刺青なんか入ってるんだぜ」
 珍しいだろ、と少し得意そうに言う行弘に、成湫は微かに首を傾げたまま微笑むしかない。
「あっ、おまえ、こういう悪そうなキューピー持ってる人見たら逃げろよ? 目とか合わせたらいけないんだからな?」
 おまえ喧嘩とか弱そうだし、なんかあってからじゃ遅いからな、という思いやり溢れる台詞にも、どう返せばいいかわからない。
「それからなんだっけ、なんか変な猫のストラップとかも見たら逃げろよ、どっかの組の粗品? かなんからしいから」
 すげぇ性格の悪そうな猫の人形らしい、と眉を顰めた行弘に、成湫は透明な笑顔で固まったまま、神妙な仕種で頷いた。
「猫のグッズだからって嬉しがって貰ったりするなよ?」
 心配そうに告げた行弘に、成湫は微妙な笑顔でこう答えた。
「……この子の可愛さに勝てるグッズなんてありませんからね」

スポンサーサイト

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。
現在の閲覧者数: