緊急避難的仮設ブログ
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2009年08月12日 (水) | 編集 |
 ウサギは淋しいと死んじゃうのよ、という与太話を聞いたことがあるだろうか。蒼いウサギは淋しいと死に、黒いウサギは薬でハイパーになるらしい。
 では、黒い○○は?
「………成湫さん、最近猫ちゃんが暴れているという噂が」
 秀麗な眉を顰めて、困ったような表情で報告するのは黒坂乙彦。何事にも完璧を追求する、社長と猫にだけ優しい大家である。
「ユキが?」
 怪訝そうに眉を持ち上げ、本当かと促すのは六条成湫。恋人と猫にだけグズグズに甘い、警視庁的には真っ黒の若き社長だ。
「はい、これを……」
 差し出された数枚の写真と報告書を受け取った成湫は、心持ち心配げな表情で書類に目を通していく。
『報告事案その1:通りすがりの千葉氏にいきなり噛み付く』
 その報告文に成湫は軽く眉を持ち上げ、微かに笑みを浮かべた。
『報告事案その2:苅谷弁護士にドロップキック』
 その後、有無を言わせず顔面を引っ掻く、という報告に成湫の笑みは深くなりニヤニヤと頷いて見せる。
「どうやらユキは淋しいようだな、元気さをアピールして淋しい気持ちを紛らわせてるんだろう」
 黒い猫は淋しいと暴れるからな、とご満悦な成湫に乙彦も軽く頷いて見せる。
「ええ、その次の報告も『十也を威嚇して全身を逆毛立てた』で、何の問題もないかと思います」
 少々噛まれたり引っ掻かれたぐらい、どうということはないでしょう、と言ってから新たな書類を差し出す。
『報告事案その7:刑事さんを朝見送る際、ニャーニャーと悲愴かつ愛らしい鳴き声で鳴き続け、刑事さんを涙ぐませた』
 その報告に目を止めた瞬間、成湫の中で黒い猫を寂しがらせることは重要な大問題へとすり替えられた。
「大変な問題だな、ユキがここまで寂しがっているとは……」
 どうにかしなければ、と立ち上がった成湫に、乙彦も真面目な表情で頷く。
「すでに手は打ってあります」
 サッと素早く成湫にスーツの上着を着せ、スッと開けたドアを手で押さえながら乙彦は続ける。
「猫ちゃんには最新の猫グッズとおやつを用意しました」
 動くオモチャから生きたネズミ(殺菌処理済み)まで用意してあると言う乙彦に頷きながら、成湫は眼差しを強くした。
「ああ、だがユキはそんな子供騙しには騙されない」
 あの子はそこら辺の馬鹿猫とは違う、聡明だからな、と断言し、やっぱり俺がいないとダメだろう、という言葉に乙彦も頷く。
「ええ、成湫さんがいないと猫ちゃんの孤独は癒されません」
 明日は休みにしておきます、という言葉に成湫は微笑った。
 そうして仕事を投げ出して辿り着いたマンションで、成湫は愛猫を思う存分抱きしめ、頬擦りし、可能な限りの体力を駆使して遊び倒した。その合間に猫に美味な餌を与え、一緒に昼寝をし、最後には風呂へ入れることにまで成功したのだ。
「ユキ、寂しがらせてごめんね………ずっと一緒にいるからね」
 そう言って抱きしめた成湫に、猫はニャンと小さく鳴いて胸にすり寄りながら甘えてくる。
 まさに蜜月。ここ数年で二人が最も仲良くなった瞬間だった。
「!」
 ピクリと耳を動かした猫に、成湫も素早くキッチンへ向かうとパネルを操作する。愛しい人は帰ってくる予定ではないからだ。
「ユキ?」
 なのに、小さなモニターに映った恋人の姿に、成湫は嬉しいと思うより先に怪訝な気持ちになった。
 どこか体調でも崩したのかと思ったからだ。
「ユキ、大人しくしてるんだよ、あの人が帰って来るからね」
 途端に脳内が恋人で一杯になった成湫は、もしも体調が悪い時は猫を大家へ預けようと決意する。具合の悪い時にはしゃぐ猫の相手なんてさせられないと思うからだ。
「飛び掛かったりしたらダメだよ、うるさく鳴くのもナシだ」
 さっきまでの甘い口調とは打って変わり、細々と猫に注意する成湫にチラリと視線を向けた後、黒猫は大きな欠伸を返した。
「…………とにかく、静かにしてろ」
 その態度に何か思いつつ、低い声で一言釘を刺した成湫は次の瞬間、蕩けるような甘い笑みを浮かべた。
「おかえりなさい、刑事さん」
 愛しい人が、思いがけない時間に帰って来てくれたからだ。
「おう、ただいま黒い金融屋、………ニャオ、ただいま」
 ドアを閉め、鍵を掛けるなり振り向いた恋人は。
「おまえが心配で帰って来ちゃっただろ! 馬鹿猫!」
 そう叫ぶなり黒猫を抱き上げ、思い切り頬擦りをしながら足早にリビングへ向かっていく。
「あの、おかえ……………聞いてないですよね」
 完全に恋人からスルーされた成湫は、その後をいそいそと追い掛けながら思い切り割り切れない何かを噛み締めていた。
「なんだよニャオ、やっぱり淋しかったのか?」
 ゴロゴロ喉を鳴らしながら甘えてくる黒猫に、恋人は嬉しそうに目尻を下げて撫でまくる。猫は成湫をチラ見して華麗に無視だ。
「だってあれだもんな、猫は淋しいと死んじゃうんだもんな」
 猫を抱きしめたままソファに寝転がってイチャイチャし始めた猫と恋人に、完全に存在そのものを無視された成湫はグッと拳を握りしめた。何か説明できない禍々しい何かが込み上げてくる。
「ユキ、金融屋は淋しいとキレちゃうんですよ」
 そうして黒い金融屋は欲望を満たすため、ソファへダイブした。

happy summer time!
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